この手の話は、少なくとも、日本の素人評論家よりは、わかってるつもりなので、コメントしてみよう。
スプリント・ネクステル
 この会社は、たしかに、US第3位なのだが、1位、2位を争う二強のおおよそ半分のスケールで、LTEネットワークの展開も大きく出遅れている。Verizonが、300市場近くで展開済なのに対して、たぶん、まだ10市場も行っていないと思う。また、新聞報道でもあるように、近年は、赤字である。
 ネットワークは、PCSバンドの1xRTT(CDMA)とESMRバンドのiDEN. それに、ClearwireのWiMAX(2.5GHz)である。Clearwireとは、ごたごたした関係で、2008年にSprintのXOHM(WiMAX)事業をClearwireに譲渡するかわりに、Clearwireの筆頭株主になった。しかし、Clearwireのおおよそ半分は、今でもSprintでない。
 WiMAXは、スタートするのは速かったが、全国展開と端末を揃えるのにつまづいて、あとからLTEでフルギヤードで来たベライゾンに抜かれてしまった。WiMAXは、今や、USでは負け犬という事が決まっていて、もはや、新規の電話型端末は、去年に出たHTC機を最後にもう出てこない。
 そこで、SprintとClearwireは、ともに、去年、LTEへ舵を切ることにしたのだが、LTEを張るには、金がいる。ところが、Sprintには、肝心要のその金がなかったのだ。
iDENは、ESMRという800MHzのバンドで運用していたが、3Gへの道がない。端末とインフラを提供しているのはMotorolaだけ、おまけにCDMAと互換性がないので、ローミングもままならない、ということになった。そこで、Sprintは、iDENを来年中にフェードアウトして、そのバンドで、1xRTT(CDMA)をやることにしている。
 さらに、2006年のAWSと2008年の700MHzのFCCオークションで、Sprintは、ほとんどライセンスを取得していないので、上位二社と対抗していくには、バンド幅とLTEインフラ投資の両方で、問題がある。

MetroPCS
メトロPCSは、ニューヨーク、ワシントンDC,テキサス、シカゴ、LA,SFベイエリアで、PCSバンドでCDMA,AWSでLTEを展開しているオペレータ。LTEの展開はやっと始まったばかりである。先般、ドイツテレコムとT-Mobile USAと合併することで、合意した。

Softbank
 というわけで、上位二社に対抗していくために、資金が必要なSprintにとって、この話はメリットがある話であるが、はたして、SBにとって、メリットのある話なんだろうか?

 巷間ささやかれているのは、
  1. TDD-LTEで、インフラ・端末調達でシナジー効果を活かす?
  2. TDD-LTEでなくても、シナジー効果が出せる?


 だが。まず、第一の点。今、USでもJPでも、LTEと言っているのは、FDD-LTEである。iPad3/iPhone 5で使えるLTEは、FDD-LTE。TDD-LTEは、世界最大のオペレータ、China Mobileが展開するであろうが、AppleのiPhone/iPadが、TDD-LTEをサポートするのか、どうかは、わからない。たしかに、SBとSprintのそれぞれの分家、Wireless City Planning(WillcomのAXGP継承会社)とClearwireは、2.5GHzにバンドライセンスを持っているし、TDD-LTEを展開するかもしれない。
 だが、そうなってシナジー効果が出てくるのは、2年以上かかる。しかも、この場合、Clearwireの残り半分を買い取ってしまう事が必要だろう。しかも、その二年の間に、CDMAとFDD-LTEの方で、上位二社とせっていかないといけない。もちろん、Appleが、TDD-LTEをサポートしてくれることも必須だ。

 第二の点。将来的には、LTE(FDDでもTDDでも)で、音声通信も、IPで、LTEの上を行く事は、技術の道なので、たしかに、4年先か5年先には、FDD-LTEで、インフラ・端末を共通調達するというのは、あるかもしれない。だが、それまでは、3Gを無視することは出来ない。(Verizonの3Gの終了予定は、2021年だ。)しかも、SBとSprintの3Gは、技術も周波数も非互換なわけだ。

 つまり、この買収で、確定したのは、SBの調達した資金が、Sprintに吸い込まれていく事はたしかなのだが、Sprintが黒字に転換するシナリオは見えていない。しかも、日本のオペレータというのは、基本的にマルドメで、USのビジネスにレディではない。外国のオペレータが、USで成功した試しは、これまでほとんどないのだ。ミスター孫は、SBのノウハウとエキスパティーズを、USで役立てることができるというが、それは、いったいなんなのだろう??  もちろん、ミスター孫を、AT&Tワイヤレスへの投資で、1兆円以上すってしまって、日本の会社にガバナンスがないことを世界に知らしめたどうしようもなく愚かなNTTドコモの経営陣と同一には語れない。なにしろ、今回は、70%のSprint株を取得してSBグループの子会社にするのだから。

 むしろ、Sprintより、T-Mobile USA + MetroPCS を買った方が良かったかもしれない。なにしろ、T-Mobile USAは、同じ、W-CDMAを使っているし、MetroPCSは、CDMAだが、バンドは、T-Mobile USAと同じなんだから。ただ、司法省にストップをくらったAT&Tの買収提示は、390億ドルであったので、今回の201億ドルでは、買えなかったであろうけど。

というわけで、私は、この話には、懐疑的だ。むしろ、これは、孫正義のバルバロッサ作戦になりかねない動きだと思う。

PS 10/19
Sprint Gains Greater Control of Clearwire New York Times

ということで、Sprintは、Clearwireの株を買い足して、50.4%の株主になったようです。実は、ClearwireとWiMaxで、提携した時に、Sprintは、54%の株主になったのだが、そのうちの一部の株を換金して、48%の株主になっていたのでした。48%になったのは、去年末か今年のことだと思う。ちなみに、Clearwireは、TDD-LTEのネットワークの建設をアナウンスしているが、金はないので、どこからファイナンスするのか、という話があります。